営業力強化

なぜ営業力強化はなかなかうまくいかないのか④
~強化のための施策をあれもこれも打っているから ~

営業力強化を図るセールス・イネーブルメントとは

セールス・イネーブルメントとは、2010年ごろに米国で生まれた「営業活動全体を改善し、最適化するための取り組み」のことを指します。

商談や育成、販促資料の管理など、営業には様々な業務があります。それらを効率化するために、ITツールなどを導入したり、人事が主導で営業研修を行ったり、情報システム部門が営業システムの設計や導入を行っている企業が多く存在します。

しかし、たいていそれらは部分的な改善に終わり、営業力の向上にはつながっていません。そこで「営業プロセス全体を一貫して設計・管理し、営業力の向上を図る」というのがセールス・イネーブルメントの考え方です。

過去に営業力強化の概念としてセールステック(Sales Tech)という言葉もありましたが、セールステックは営業(Sales)と技術(Technology)を掛け合わせた造語で、ITツールを導入して営業活動を改善する取り組みを指します。セールス・イネーブルメントではセールステックが道具として活用されますが、単なる顧客管理などの営業支援ツールとしてだけでなく、営業活動を数値により可視化し、計測してセールス・イネーブルメントのための各施策がどれだけ効果があったかを把握することにも活かされます。

このように、道具の導入が目的化せず、部分的な改善に陥らないようにする点が、今までの営業革新と言われる概念とセールス・イネーブルメントの大きな違いです。

そして、セールス・イネーブルメントの施策としては例えば以下のものが挙げられます。

  • 採用部門、技術部門、マーケティング部門、カスタマー・サクセス部門との連携強化
  • 販促ツールの創出
  • 営業社員の教育や営業マネージャーのコーチング力向上
  • 営業活動上の各種データの整備と営業活動への活用
  • 営業組織の最適化
  • 営業戦略の浸透と実行
  • 営業活動を数値化して検証し、営業活動の最適化・効率化を図る

なぜ今セールス・イネーブルメントか?

では、なぜ今セールス・イネーブルメントが注目されているのでしょうか?その理由を以下に挙げます。

1.マーケティングを主軸においたインバウンド営業の増加

MA(マーケティング・オートメーション)の普及により、テレアポや飛び込みが主流だった時代が終わり、昨今、多くの企業ではMAツールの活用によって、膨大な数の見込み客を入手することができるようになってきています。

ところが実際には、マーケティング部門からどんどん多くの見込み客が営業部門に提供されているのに、営業部門がそれを受注につなげられないという状態になっている企業が増えてきています。

見込み客の数が膨大になっても、その対応に必要な営業の生産性向上が遅れている事と、大量の見込み客のそれぞれのニーズの違い(単なる情報収集の見込み客、競合と比較している見込み客、契約直前でためらっている見込み客等)に対応できる営業力、商談力の欠如がその原因と言われています。

このようにマーケティングを理解し、それと連携した営業活動をしていく必要が出てきたのが、セールス・イネーブルメントが注目されている理由です。これまでのように、「マーケティングは見込み客を営業に渡す仕事」「営業は受け取った見込み客に提案をし、受注する仕事」のように両部門がバラバラでは営業力の向上を目指すのは難しいと言わざるを得えないからです。

2.サブスクリプションモデルの普及

サブスクリプションモデルとはユーザーが物を買い取るのではなく、物の利用権を借りて利用した期間に応じて料金を支払う方式のビジネスモデルのことで、コンピュータのソフトウェアの利用形態としてはおなじみのビジネスモデルです。

売り切り型のサービスに比べて、「とりあえず売ってしまえ!」という営業では、すぐに解約につながってしまうなどもあって、「売ったあとも顧客の面倒をみて如何に顧客がそれを活用して成功してもらうか?」がサブスクリプションモデルにおいての重要なポイントとなっています。

よって、営業部門はこれまで以上に製品や商品、あるいはCS(カスタマー・サティスファクション)の体制等を理解し、そもそもどうすれば顧客が、製品やサービスをよりビジネスに活用できるのか?を把握し、顧客の課題や業界事情、あるいは顧客の立場に応じて適切な問題解決策を提案する必要があります。販促や提案の資料1つとってみても、営業部門だけで作るのは難しく、あらゆる部門と協力して作り上げていく必要があります。

この他部門との協力体制も含めての営業プロセスを再構築しようというのがセールス・イネーブルメントなのです。

3.CRMやSFAへの投資を回収しきれない企業が多い

CRMとは、Customer Relationship Management (カスタマー・リレーションシップ・ マネジメント)の略で、日本語では「顧客関係管理」と訳され、SFAはSales Force Automation (セールス・フォース・オートメーション)の略で、「営業支援システム」と訳されますが、これらのITシステムは今、営業部門に急激に普及してきています。

高額なものは導入・運用に数百万円もかかり、またそのシステムを使いこなせるまでの労力・教育コストもかかるので、その投資は決して小さなものではありません。

しかし、ある調査によれば、SFAやCRMの導入により、「案件管理や商談情報の見える化はできた」ものの、「営業の提案力アップやスキルの標準化という営業力の向上には効果がない」という意見が多く聞かれます。

流行にのって飛びついた・・・すべての企業がそうではないにせよ、SFAやCRMというツールの導入だけでは解決しきれなかった「担当者の売上げ格差是正」「育成効率改善」「営業人員不足解消」「属人化からの脱出」「顧客接点時間の確保」という営業力向上のための課題を、その導入したツールを、営業プロセスの再設計や、組織再編、研修・コーチングなどと組み合わせ、営業施策をトータルで考えて、これらの課題の解決を図り、営業力の強化を進めるのがセールス・イネーブルメントです。こうして、「見える化」だけでなく、営業力強化のための課題を解決することが出来て、はじめてツールの導入コストの回収、もしくはそれを上回るメリットが初めて得られるのです。

従来は「販促資料作成」は営業企画部門、「営業教育実施」は人事部というように「施策そのもの」や、「施策を打つ部門」がバラバラのまま、営業力向上を図ろうと考えていた企業が、未だに多く見られます。

そうではなく、つまり「販促資料を作成したら終わり」ではなく、販促資料が「誰に、誰が営業プロセスのどこで、どれくらい使っているか」を掴み、その使い方を他のメンバーに単に教えるだけでなく、その内容をどれだけ理解しているかを見えるようにし、各販促資料が、あるいはその教育がどれだけ成果に反映できているかを把握する。

それをノウハウとして共有し、販促資料や教育に反映する・・・セールス・イネーブルメントは、このように、営業活動におけるさまざまな要素全体を鑑み、そのための施策を一元管理して、実行し、検証して、営業力強化を継続して図っていく活動と言えます。

セールス・イネーブルメントに成功するためのポイント

セールス・イネーブルメントを「営業力の格差」と「人員不足」という問題の解決につなげることが、成功のポイントです。なぜなら、営業組織の「二大問題」と言われているのが「営業力の格差」と「人員不足」だからです。

1.営業力の格差(「属人化」)とは

言い換えると「営業パーソンによる営業力の差」が解消されないということです。昨今従業員の入れ替わりも激しく、新人だけでなく中途採用の営業パーソン、そしてベテランと、それぞれセールスコンテンツ、デジタルツールに対する理解度や活用方法もバラバラであるというケースは珍しくありません。

2.慢性的な人員不足とは

営業という職種への嫌悪感から、採用に対する応募人数が少なく思うように人が採れないという問題もありますが、むしろ営業現場においては、限られた人数の中で「早期に営業パーソンの育成を成し遂げなければならない」という問題のことです。これはよしんば人が思うように採れたとしても、ずっとつきまとう問題です。

「属人化」が当たり前の中では、優秀な営業パーソンによる効率的なノウハウがあってもそれがコンテンツ化、あるいは共有化されないので、育成にも活かせません。

また、この2つの問題は営業組織自体が一番認知している問題でもあるので、その問題の解決策である「商談スキルの標準化」と「営業パーソンの早期育成」を成し遂げるのがセールス・イネーブルメントであると捉えれば、自分たちの抱える問題の解決を支援するための手法と捉えやすくセールス・イネーブルメントというものが活用されやすいのではないかと思います。これがセールス・イネーブルメント成功の第一のポイントです。

二大問題解決のポイントは「コンテンツ作成」「教育」「マネジメント」「PDCA」

1.コンテンツ作成

コンテンツとは「カタログ」「導入事例」「インタビュー記事」等のことです。これを目的に応じて最適な形式(PDF、画像、動画など)で表示できるようにして、整理・集約・蓄積して誰でも活用できるようにします。

普通ならば、このコンテンツの整理・集約・蓄積で終わってしまうことが多いのですが、さらに、「コンテンツを誰に、どんな場面で活用したら、どういう成果が出たか?」というコンテンツの貢献度分析を行うのがセールス・イネーブルメントです。

すると案件獲得数上位の営業パーソンと下位の営業パーソンでは、使用するコンテンツ、その活用場面が違う事などが分かり、その分析結果から、成績が優秀な営業パーソンが行っている案件獲得のためのノウハウを他の営業パーソンに共有し、営業組織全体で営業力の向上を図ることができます。

2.教育

セミナーやOJTによる教育の効果は否定しませんが、そのためにはまとまった時間を捻出する必要があります。そこで、セミナーやOJT、あるいはミーティングや対話ですべての教育を行うとせず、「マイクロラーニング」を活用することで早期の育成につなげようというのがセールス・イネーブルメントの大きな特徴です。

「マイクロラーニング」とは「スキマ時間の3分から5分を使って学習する方法」のことであり、主にスマートフォンでの動画の視聴によって、繰り返し何度でも学習できるというメリットも併せ持っている教育の手法です。

例えば、上記1.「コンテンツ」の所で述べた「誰に、どんな場面で、どんなコンテンツを活用して、どんな商談をしたら、案件が獲得できた」という内容を、そのコンテンツとともに3分ほどの長さの動画で配信するだけで、育成対象者の教育に貢献できるはずです。

3.マネジメント(推進役)

セールス・イネーブルメントの推進には権限(責任)を持った推進役が必要です。営業組織では、「商談スキルの向上」や「早期育成」にITを活用するという意識を持っているケースは稀で、しかも「スキルは教えてもらうものではなく自ら盗むもの」また「顧客との接点を1分たりとも削りたくない」などの意識も少なからず根づいています。

ですから、1度や2度の説明では、容易には協力をしてくれない面が多くあると思います。そういったときにはリーダーが権限を使って、「少し強引に」ことを進めていくことも必要です。

「少し強引に」・・・とは早い時期に成果を得るために、いきなり営業組織全体でセールス・イネーブルメントを始めるのではなく、とにかくまずは一部門から、1チームから始めることを指します。やはり成果が出れば人は動きます。それには小さく始めて、早い段階で成果を上げることがセールス・イネーブルメントの推進のポイントです。

4.PDCA

例えば「●●というコンテンツは〇〇という層のキーマンに××のシーンで使うと案件創出につながることが多いのでは?」という仮説を作り(Plan)、実際に営業活動で試してみて(Do)、その内容を分析して(Check)、それが正解ならノウハウとしてこれを汎用化し、誰でも活用できるように教育する(Action)。 これを繰り返し、継続的に取り組むことでコンテンツやツール、そして教育の「質」が向上し、営業力向上に結びついていきます。

まずは小さなチーム単位で始めて、営業力強化を継続的に行う

セールス・イネーブルメントはまずその目的を「営業力の標準化」とそれを使った教育による営業パーソンの「早期育成」に絞り、その実施する現場はできるだけ小さな単位にすることが大切です。そうすれば小さな成果がスピーディーに出て、成果が出れば他のチームや部署に協力的、能動的な動きが生まれ、より大きな営業組織の営業力の向上へとつなげていくことができます。

関連記事
おすすめ記事
PAGE TOP