マネジメント / リーダーシップ

優れた管理職を育成するカギは、プレ・マネジメント経験にあり
~ 管理職になる前の段階で、どういう経験を積むか? ~

人事担当者に、「現在、育成に力を入れている対象層はどこですか?」とお聞きすると、
「管理職」という答えが返ってくることが多い。
では、「今後、育成に力を入れていきたい対象層はどこですか?」と、お聞きすると、
「管理職手前」という答えが返ってくることが多い。管理職候補者の育成と発掘に課題
を感じている人事担当者が多いようです。
本日は、次代を担うマネジメント人材の育成・輩出に役立つ情報をお届けします。


1.はじめに(問題意識)

管理職就任4ヶ月後の課長さんがつくずく言ってました。「今、課長が務まっているのは、
係長・主任時代の “プレ・マネジメント” 経験のおかげです」と。
プレ・マネジメント経験とは「管理職の準備となるようなマネジメントの疑似体験」のこと
です。
優れた管理職(ミドルマネジャー)の育成は、いつの時代でも重要な課題です。
管理職昇格時の「新任管理職研修」は重要ですが、それだけで十分なのでしょうか?

優れた管理職を育成するためには、「管理職になる前(リーダー及び中堅社員)の段階で
どういう経験の積み方をするか」が極めて重要です。


2.組織人として成長するとはどういうことか?

組織人として成長するとは、年次を重ねてポジションが上がっていくということではあり
ません。より広い視野で物事を捉えられるようになること、より長い時間軸で物事を考え
られるようになること、より大きな責任を担えるようになることです。
下記のような「本質・責任・視野・時間軸」であってほしいわけです。

仕事の経験を重ねるにつれて、より広い視野・より長い時間軸を獲得していければ良いの
ですが、肩書は管理職でも、目先(足元)偏重で狭い視野の中で、中堅社員と同次元で
バタバタしている人もいます。
視野が狭く目先偏重では、市場の変化や組織の問題に気づかず、機会を掴み損ねたり、
重要な問題が先送りされたりするリスクがあります。価値創造が叫ばれる昨今、これは
由々しきことです。
現場でありがちな傾向(典型例)を整理すると、次の通りです。

「管理職手前(リーダー・中堅社員)の段階でどのような経験を積むか?」が、重要です。
では「どんな経験を積んでおくと良いか?」について、次章以降で詳しくお伝えします。


3.管理職ひとつ手前(リーダー)でのプレ・マネジメント経験①

マネジメントとは、「(自分がやってしまうのではなく)人を通じて物事を成し遂げる」
ことです。
管理職の悩みとして最も多いのは、人(部下・上司・他部署)を巻き込み動かすことが上手く
行かず「自分がやるしかない」となり、時間に追われ疲弊していくというものです。

新任管理職研修で、コンプライアンス、ハラスメント、労務管理、人事考課等の知識を
インプットすることが多いと思いますが、現実にはそれ以前のところで悩みを抱えている
ことが多いようです。

管理職のひとつ手前=リーダーの時に、クリヤーしておくべき成長課題は、管理職として
の権限がない中で、いかに影響力を発揮して、人と組織を動かすか」です。

「権限(ポジショナルパワー)を使わずに、影響力を発揮して人と組織を動かす」経験を
積まずに管理職になり、権限を得た人はパワーの発揮の仕方を誤ることがあります。
権限(ポジショナルパワー)を使って部下を動かすのは悪いことではありませんが、権限に
頼りっきりでは問題です。
部下からは「管理職らしい振る舞い」には映らず、「管理職ぶっている」ように見えてしま
います。
これでは、「この上司を信頼してついていこう」という信頼は生まれません(こういう管理
職が権限を濫用すると、パワハラと受け止められるリスクが高い)。

権限を使わずに人と組織を動かす経験を積み、その術を身に付けた人が管理職になったなら、
部下を動かすことへの苦労や悩みは軽くて済むはずです。


4.管理職ひとつ手前(リーダー)でのプレ・マネジメント経験②

管理職ひとつ手前(リーダー)で積んでおきたい経験の2つ目は、「人を育てる経験」です。
管理職になる前に、後輩を育てる経験を積み、人材育成の苦労や醍醐味を実感した上で管理職
になるといいのですが、そういう機会が減ってしまった現実が、各社で見られます。

・例1:組織のフラット化(階層削減)で、係長制が廃止され、課長が部下育成を担っている
・例2:採用抑制で若手社員が配属されず、30歳を過ぎても職場で最年少
・例3:プロジェクト型の仕事が増えた。プロジェクトリーダーとしてタスクを完遂する経験
は積んでいるが、人材育成には本気で向き合っていない

ある電機メーカーで「リーダー育成塾(係長対象)」をお手伝いした際の事例を紹介します。

課題
□ 事業成長を支える管理職が必要(世代交代が迫っている)
□ 技術系社員は専門家志向が強く「管理職になりたい」という人がほとんどいない
□ 入社以来、専門性を高める技術教育に偏っている

教育プログラム
①マネジメントやリーダーシップに関する一般的な知識・スキルをインプットするのではなく、
現場での実践を通じて、リーダーの仕事の醍醐味(後輩育成等)を体感してもらう
②自分自身及びリーダーの仕事に対する「思い込み(バイアス)」を取り払い、新たな認識を
持つ
③現場での実践と振り返りを繰り返す半年間のアクションラーニングとする

[プログラムの効果]
①成果の出し方に工夫が見られた(例:リーダー個人に紐付いた業務をメンバーに引き継ぐ)
②メンバーから「〇〇リーダー、最近ミーティングの仕切りが変わってきましたね」と言われた
③半数のリーダーから「管理職を目指すのも悪くないかも」という声が挙がった

「“人を育てる”なんて畏れ多いですが、“人の成長に携わる”のは面白いですね」と言うリーダー
が半数いたのは大きな成果だと、人事部長はおっしゃっていました。


5.管理職ふたつ手前(中堅社員)でのプレ・マネジメント経験

人(部下・上司・他部署)を上手く巻き込めずに苦労している管理職が多く見られますが、
関係者を「巻き込む」力は、管理職になってから身に付けるものではありません。
管理職になる2つ手前=中堅社員の時期に身に付けておきたいことです。

中堅社員というと、バリバリのプレイヤーという人が多いと思います。

しかし、自分の仕事をこなすことに終始し、視野が狭いところで固まってしまうと、人を育て
たり動かしたりということへの関心が高まらず、管理職になっても相変わらずプレイヤー業務
に埋没ということになってしまうリスクが高いのです。

中堅社員の時期に、周囲を巻き込んで仕事をする醍醐味を経験することは、将来優れた管理職
になるための予行演習です。

ここで申し上げていることは、中堅社員の時期から管理職候補者を早期選抜してエリート教育
をしようという意味ではありません。

中堅層全体を底上げして、管理職を担える人材を育成・ストックしておくのが得策。そのため
にも、中堅社員の時期に「関係者を巻き込む」仕事の仕方を身に付けておきましょう、という
ことです。

全ての中堅社員が将来管理職になるわけではありませんが、管理職にならずとも、より大きな
やり甲斐ある仕事をするために、関係者を巻き込む仕事ぶりを身に付けておいてほしいのです。

ある専門商社での取り組み事例を紹介します。

「現在の管理職を再教育するよりも、将来の管理職候補者への教育を充実させて、次代を担う
マネジメント層を厚くしよう」という人材育成方針を掲げました。

「マネジメント人材の育成は、リーダーになる前から着手しないと手遅れになる」という危機
感があって、「中堅社員(サブリーダー) ⇒ リーダー ⇒ 管理職」と教育を体系化して取り組
んでいます(成長ステップをモノサシにして)。

中堅社員教育では、視野の拡がり(全体を俯瞰して見る)、関係者の巻き込み行動を重視して
います。下記のような絵図(仕事の関わり図)を用いると一目瞭然です。

こういう教育を続けていくと「当社にこんな人材がいたんだ!」とビックリするような人材
発掘に結びつくことがあります。この会社では、教育後「サブリーダー ⇒ マネジャー」へ
抜擢する人事がありました。

「これだけ視野を広く持ち、多くの関係者を巻き込めているのであれば、マネジャーを任せ
てみよう」と。


6.まとめ

いつの時代も優れた管理職の育成は重要なテーマであり、「新任管理職教育に力を入れる。
既任の管理職を再教育する」ことは、とても意味のあることです。

しかし、今回のレポートでは、「優れた管理職を輩出するためには、管理職になる前のプレ・
マネジメント
経験が決め手である」という観点でお話をしてきました。

最近は、現場に任せておけば勝手にプレ・マネジメント経験が積める時代ではありません。
プレ・マネジメント経験を積む場を意図的に設けてチャレンジしてもらうことが重要です。

そういったチャレンジ経験を積んでもらうために研修を活用するのも手です。

研修は、知識・スキルをインプットする場ではなく、プレ・マネジメント経験を積んでもらい、
経験したことを振り返り、実践を伴った気づき・学びを得て、マネジメント・リーダーシップ
の素地を養う場と位置づけて行うと効果的です。

株式会社マネジメントパートナーでは、階層毎の育成をサポートする研修プログラムを提供し
ています。
また、「リーダーの育成」「中堅社員の育成」の他、各階層教育のキーコンセプトをお伝え
するオンラインセミナー(無料)を開催しています。
ご興味がありましたら、是非ご参加ください。

詳細・お申し込み方法は、下記URLをクリックしてご覧ください。

戦略的階層教育のキーコンセプト・セミナー
https://www.mg-p.co.jp/seminar/seminar-570/

関連記事
おすすめ記事
PAGE TOP