評価制度

これからの評価制度の課題①
~【OKRブームの背景】ノーレイティング~

OKRが生まれた背景には「ノーレイティング」、目標管理と評価を結びつけることによって、社員の能力発揮を阻害して良いのか?という反省がありました。米国同様、日本でもこの「能力発揮を阻害する」という問題に対して手を打ち始めている、その象徴が「OKR導入ブーム」です。

  1. OKRとは何か?
  2. 米国での「ノーレイティング」ブームが「OKR」を生むきっかけになった
  3. 「目標管理における評価(レイティング)」の問題点
  4. 「ノーレイティング」を成し遂げると同時に米企業は何を行ったか?
  5. 給与や昇級・昇格はどう決めたのか?
  6. 社員の持つ可能性を最大限に引き出し社員と会社の能力を最大化するOKR

1.OKRとは何か?

まず初めに「OKR」とは何でしょうか?知っている方も多いと思いますが、「OKR」は「目標管理」の手法の1つです。「Objective & Key Results」の頭文字をとって「OKR」と呼んでいます。 2014年に「How Google Works」で、Googleが採用している手法だと紹介されて以来、ITのスタートアップ企業を中心にその導入が進みました。我が国では株式会社メルカリが「OKR」の記事と言えば必ずその名が出るほど、その好導入例企業として紹介されますが、他多くの日本企業でも導入が進んでいます。

ではなぜ「OKR」の導入が我が国でも進むようになってきたのかを、まずは米国の歴史を見ながら、考えていきたいと思います。

2.米国での「ノーレイティング」ブームが「OKR」を生むきっかけになった

「ノーレイティング」は「人事評価をしない」「人事制度はいらない」という意味で2015年には既にフォーチュン500の約10%の企業が導入していたと言われている考え方です。「ノーレイティング」は、実際には「まったく評価をしない」ということではなく 「年度単位のA,B,Cといった社員の格付け(レイティング)や社員の評価を止める」という動きのことです。

アメリカ企業においても年初に年度の目標を設定し、中間で進捗のすり合わせを行ない、年度末に実績を踏まえてレイティングを実施し、本人にフィードバックを行なうという目標管理による評価が行われていました。しかし、この目標管理による評価には問題点が多く、その改善の旗頭になったのが「ノーレイティング」という考え方で、しいてはそれが、その新しい手法であるOKRを生むきっかけになったのです。

では、日本でも多くの企業が行っている目標管理、そしてそれによる評価のどこが問題だったのでしょうか?

3.「目標管理における評価(レイティング)」の問題点

大きくは3つあると言われてきました。

  1. 「失敗すると評価が下げられる」と思い萎縮し、社員が高い目標にチャレンジせず、結果的に潜在的な能力を発揮しない。

  2. 「専門性が高く尖った人材」は従来の評価指標で測ると「低評価」になる。

  3. 多くの人が期末に「ほどほどの評価」になりモチベーションが上がらない。

この3つの問題から、そもそも評価などするからかえって、やる気が無くなり能力を発揮できない・・・という結論に至ったのが「ノーレイティング」の考え方です。では評価をしないのなら、いったいどうすれば、「やる気」や「能力発揮」を促進できると考えたのでしょうか?

4.「ノーレイティング」を成し遂げると同時に米企業は何を行ったか?

昨今のビジネス環境はそのスピードが加速しています。故に新しい製品・サービスが受け入れられるかは、実際にマーケットに出してみないとわからないと言えます。つまり市場への投入後も、顧客の声を聞きながら変更を加えていくようなアジャイル(=素早い)な仕事の進め方をしなければ競争には勝てません。

このようになってくると個人の目標設定やフィードバックもアジャイルに実施されないと現場の現状と合わなくなります。年度単位で設定した目標がわずか数カ月や数週間で変わらざるを得なくなることもあるからです。 よって個人の目標設定やフィードバックがアジャイルに行われるようになれば、現場は活き活きとし、変革を起こしやすくなり、結果として成果も上がる・・・と米国企業は考えたのです。

また、社員に最大のパフォーマンスを発揮させるには、「心理的安全」や「内発的動機」が必要だとよく言われています。米企業はそれを引き出すため、「ノーレイティング」、つまり年度単位での目標管理とその人事評価を廃止すると同時に高頻度でのフィードバック(対話)を増やしたのです。

では、どうやって彼らは上司として、頻繁に対話を実施できたのでしょうか?

これに関しては、笑い話ではないのですが、確かに「社員の能力開発・キャリア開発も自分の仕事だ」というマインドセットが重要だったのはもちろんなのですが、過去、評価時期(年度末や期初)に大量に割いていたフィードバックや対話の時間と短い対話を頻繁に行うのにかかる時間トータルとではあまり大差なかったという事実があったようです。

また「ノーレイティング」そのものが、膨大な時間のかかる年次評価作業から解放してくれる分、その時間も対話に使っていけるので高頻度な対話が可能になったと言われています。

5.給与や昇級・昇格はどう決めたのか?

では、年度の等級や格付けをせずにどうやって給与を決めたのか?

これで最も多いのがマネジャーに原資を渡してマネジャーが決定するという方法でした。年次ごとの評価があろうがなかろうが、業績データや日々の業務に関する情報をマネジャーは当然把握しているはずです。

また、上記で述べたように、期中に高頻度な対話があれば、対話の中でメンバーに、その時点でのマネジャーの評価を即伝えることもができますし、メンバーも自分がどう評価されているのかがわかります。このすり合わせが給与などの報酬の決定の際にメンバーの納得感を年次評価であったときよりもより高いものにしたそうです。

また、昇級・昇格に関しては、今までと変わりはなかったそうです。もともとほとんどの企業が年次評価だけで決定していなかったからです。新たなミッションを遂行するための能力やマネジメントやリーダーシップに関するアセスメント等で、総合的にそれを判断していたからです。

6.社員の持つ可能性を最大限に引き出し社員と会社の能力を最大化するOKR

評価制度のあるなしに関わらず、「社員の能力発揮や可能性を広げるために日常的にフィードバックや対話を欠かさないこと」、これは日本企業でも既に行われてきたことだと思います。

しかし、その一方で、目標管理が「評価のための評価」や「業績管理のためだけの評価」のための道具になってしまっている例を日本企業では多く見かけます。確かに、「ノーレイティング」は「目標管理制度及びそれに絡む評価制度の撤廃」という部分が、注目されました。

しかしなぜ「ノーレイティング」か?と言えば、その本質は「社員の能力、可能性を最大限に引き出すことによって、社員と会社の能力を最大化すること」にあると思います。だから、「高頻度なフィードバックと対話が重要」「マネジャーのマインドセット」が重要だと訴えているのです。

「対話重視」あるいは「アジャイル」なコンセプトを持った新しい目標管理の潮流がやがて、その考え方に即した目標管理のツールとしてのOKRへとつながっていったのです。そして米国企業と同じように、能力発揮を目指していながら、従来の目標管理によるマネジメントや評価が、それを阻害していることに気が付いた日本企業が「ノーレイティング」や「アジャイルな対応」と言った、新しい目標管理や評価のやり方を模索し始めている、その象徴が日本企業のOKR導入ブームであると考えられます。

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