マネジメント / リーダーシップ

次世代リーダー育成のポイント

VUCA(Volatility変動性・不安定さ、Uncertainty不確実性・不確定さ、Complexity複雑性、Ambiguity曖昧性・不明確さ)が増すこれからの経営環境において、次世代リーダーの育成は急務とされています。

しかし、一方で「リーダーにはなりたくない」と言う人の増加や、選抜の難しさ、現場からの反発など、その育成には問題や課題が多くあります。如何にして、それらに取り組むべきか?について考えていきたいと思います。

  • 「リーダーになる」というのはどういうことなのか?
  • 人の挑戦意欲を喚起するには?
  • 次世代リーダー育成の3つの問題
  • 「変革型リーダーの輩出を支える人」が「変革型リーダー」そのものである
  • 次世代リーダーの育成を下支えする人事制度改訂2つのポイント

「リーダーになる」というのはどういうことなのか?

自らのビジョンへの強い思い・・・これらに蓋をし、見ないようにしてきた・・・このような、今までの時代の働き方こそ、「リーダーなんかになりたくない」という言葉の裏にある本質です。「自分への理解を深める」ことが、リーダーの初めの一歩です。

リーダーになりたくない人は増えている

弊社では先般、大阪と東京において、人事・教育担当の皆様と、「次世代リーダーの育成」や「変革型リーダーを輩出できる組織とは?」というテーマで、懇談会を開催させていただきました。

有意義な会であったと同時に、その中で「育成」や「輩出できる組織」というテーマ以前に、「そもそもなり手がいない」「上を見て、あんな風にはなりたくないと言って手を挙げない」という声を耳にしました。皆さまの企業ではいかがでしょうか?

また、昨今「チームの心理的安全性」の重要性が強調され、それを実現するリーダーのスタイルとして、「支援型リーダーシップ」や「サーバント型リーダーシップ」などが注目されています。

現役のリーダーたちは、「そのようなスタイルでは社員を甘やかすことになる」「心理的安全性は、各自がリスクを取ることとセットでないと、職場が単なる『仲良しクラブ』になってしまう」と思いつつも、「リーダーは常に下出でなければならない」「そんなにグイグイ引っ張るな」という、「支援型」「サーバント型」を逆手に取ったような、理不尽とも言える声が巻き起こる中、日々葛藤しています。

藤のストレスからなのでしょうか、当のリーダーたちからも、「リーダーなんて疲れるだけだ」「貧乏くじだ」「なるもんじゃない・・・という声も聞かれます。

これを見て、さらに若手社員は「ああはなりたくない」と、リーダーという役割を引き受けることに嫌悪感を強めていく・・・こんな悪循環が現場では起きているのかもしれません。

リーダー発達とは何か

日本大学の田中氏による、「リーダー発達に関する心理学的研究の動向と課題」の中に「リーダー発達」と「リーダー開発」の違いに関する記述があります。(参照https://atlantic2.gssc.nihon-u.ac.jp/kiyou/pdf18/18-227-238-Tanaka-2.pdf)

リーダー発達(leader development)

  • 自己の気づきや特定の課題遂行スキルなど、人間的な資質の発達に焦点が当てられる
  • リーダーとしての諸側面の成長過程のメカニズムや機序に焦点が当てられる
    ※機序=仕組み
  • 主として産業・組織心理学の研究者によって研究が行われ、発達心理学や社会心理学のモデルを積極的に援用している。

リーダーシップ開発(leadership development)

  • リーダーとして必要な潜在的な対人関係能力の構築を意味している
  • どうすれば優れたリーダーを育てることができるか、そのためにはどのような教育や指導を行えばよいかといった実践的な課題をもつ
  • 主として経営管理、組織論や人的資源開発を中心とした経営学で研究が行われる

また、田中氏はこの2017年の論文の中で、「リーダー発達」を研究する上での課題や問題について触れながらも、「今後は学術的あるいは実務的関心から、『リーダー発達』の研究は質・量ともに進展していくと述べています。

実は、私たちが良く耳にするリーダーシップの理論は、「リーダーシップ開発」と呼ばれるものが多く、今回のテーマのような、
「リーダーに役割には就きたくない」又は「リーダーには向いていない」→「もしかしたらリーダーをやれるかも・・・」→「私はリーダーだ!」
のような、リーダー自身の心理や、リーダーについての自己イメージの発達について、役立つ理論が「リーダー発達」です。

リーダーの出発点は「リード・ザ・セルフ」

「リード・ザ・セルフ」は「リーダーシップ塾」を主宰する野田氏と組織行動論の研究者である金井氏が、「リーダーシップとは」というテーマに沿って執筆した本、「リーダーシップの旅-見えないものを見る-」の中に出てくる言葉です。

「初めからリーダーたる自覚でリーダーシップが生まれてくるものではない。英雄が旅に出るのではなく、旅に出てから英雄になるのだ。リーダーシップの旅は、「リード・ザ・セルフ」、「リード・ザ・ピープル」、「リード・ザ・ソサエティ」と段階を踏み変化していく・・・」という文章があります。

ここで言う、「リード・ザ・セルフ」とは何でしょうか?
確かに、夢やビジョンは人を駆り立てますが、反面誰も進んだことのない道を進むことには大きなリスクも伴い、恐怖もあります。それでも前に進むことが出来るのは、自分の内なる声として、自分自身を突き動かす原動力、「本当に旅に出たい」「見えないものを見てみたい」と思う強い気持ちが、恐怖に勝るからです。

このように、「リード・ザ・セルフ」とはリーダーシップ発揮の起点であり、原点のことを指しています。

リーダーシップ理論は、カーライルの「英雄崇拝論」のような偉人や英雄の分析に始まり、20世紀に入ってからの「先天か?後天か?」の議論。その後「マネジリアル・グリッド」などの行動に焦点を当てた研究。そして、リーダーを取りまく環境との関係での理論である「SL理論」や「コンティンジェンシー理論」、1970年代に入ってからは、「変革型リーダーシップ」の重要性が説かれ、「ティッピング・ポイント・リーダーシップ」「レベル5リーダーシップ」などを経て、今日に至っています。

しかし、リーダーシップ理論の大半は、リーダーの置かれている周辺の環境や部下、あるいはその動かし方、に焦点を当てたもので、「リーダー発達」、つまり「リード・ザ・セルフ」の観点からのものは少ないのが現状です。「リード・ザ・ピープル」「リード・ザ・ソサエティ」の前に「リーダーになりたくない」「リーダーの役割など背負いたくない」のはなぜなのか?という自己への理解が必要なのです。

セキュアベース・リーダーシップとは

スイスのビジネススクールIMDの教授である、コーリーザーらによる著書に、「セキュアベース・リーダーシップ」というものがあります。

「愛着理論」で知られる、英国の児童精神分析学者であるボウルビィは、その中で、「幼児は母親が側にいると安心し、母親を心理的な安全基地としながら、新たな探索行動を行っている」という「セキュア・ベース」という学説を提唱しました。

今の時代のように、不安を乗り越え、リスクを背負って、新しい可能性に挑戦することが必要な時代です。

そういう時代には、前述の幼児に対する母親ではないですが、「部下に心理的安全性を与えるリーダーの存在、及びリーダーが説く魅力的な夢や言葉も心理的な安全基地(セキュア・ベース)になる」という主張が、「セキュアベース・リーダーシップ」の本質です。

セキュアベース・リーダーシップが、今までのリーダーシップ理論と大きく違うのが、「どうすればメンバーに対してリーダーが、セキュア・ベースになれるか?」ではなく「リーダー自身のセキュア・ベースを強化する」「リーダー自身にとってのセキュア・ベースは誰、また何であるか?」という点を論じている点です。

「高業績を上げ続けるリーダーは、まずよく自己を知った上で、自分のセキュア・ベース(心理的安全性)を作り、そしてチームの、組織のセキュア・ベース(心理的安全性)を作るというセキュアベース・リーダーシップ理論は、「なぜ自分はリーダーになる気がしないのか?」「なぜ自分はリーダーという役割が嫌いなのか?」という自分自身を理解することこそ、リーダーとしての第一歩であることを教えているとも言えるのではないでしょうか?

AIと共存できるリーダー

AIをはじめ、IT技術が身近になるにつれ、「人間でなければできないことの重要性」が説かれ始めています。人間でなければできないこと・・・すなわち、自らのビジョンや希望に強い思いを持ち、それを語り、実現しようとすること・・・。

今までは、これらに厚い蓋をして、見ないようにするのが、「働くということだ」と思い込み、多くの人が生きてきました。

しかし、この「蓋をしてきた」ということそのものが、「リーダーの役割になんか就きたくない」という言葉の裏にある、本質ではないでしょうか?

ということは、「自分への理解を深める」、つまり蓋を開け、「本当は何をしたいのか?」「何を実現したいのか?」をしっかりと見つめ、明らかにすることで、既に良きリーダーに向けての第一歩を踏み出している・・・と言えるのではないでしょうか。

人の挑戦意欲を喚起するには?

VUCAと言われる時代、社員の挑戦意欲喚起やチャレンジ行動促進は必須の課題です。そのためのポイントは、「小さな成功体験の創出」「等身大の成功事例提供」「応援によるマネジメント促進」「心身の健康の保持奨励」の4つです。

「自己効力感」を高めることが挑戦意欲喚起のポイント

「自己効力感」とは、「自分にはできるという認識」のことです。
心理学者のアルバート・バンデューラが、「自己効力感が高い人ほど、より困難な目標を設定し挑戦する」という研究発表の中で使った言葉として、広く知られています。

ここ数年、内閣府の『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』において、我が国の若者の「うまくいくかわからないことには挑戦しない」という回答が、調査対象七か国中トップという状態がいており、若者の自己効力感の低さが原因ではないか?と懸念されています。

今「挑戦意欲喚起」は、どの企業においても必須の課題で、「組織や人材の自己効力感をどう高めるのか?」は、まさに他人事ではないのです。

自己効力感は自分では高めにくい

人は毎日、顧客や組織、あるいは市場から受ける多様な情報を、自分なりの解釈加えて行動をしています。ですから、同じ情報を受け取っても、それを「チャンス」と解釈する人もいれば、「ピンチ」と解釈する人もいます。

挑戦すべき課題に対して、「自分にはできる」と解釈して挑戦する人もいれば、「自分には無理」と解釈して挑戦しない人もいるわけです。これらの違いは、各人の「社会的認知」の違いが引き起こすものと考えられています。

前述の「自己効力感」は、「社会的認知」の中でも、「目標達成に対して自分がどのように認知しているか」という認知です。この認知は、変えることが可能であり、しかも行動に直結しているため、挑戦的な目標に取り組む必要がある今のビジネス環境では、常に「自分にはできない」と解釈しがちな人材ではなく、常に「自分にはできる」という解釈をする傾向が強い、「自己効力感」の高い人材が求められているのです。

一方で、「自効力感」は「自分自身で持つことが難しい」と言われています。それは、「自分にはできない」という認識が、固定観念や思い込みになっていることが多いからです。そこで、他人が、固定観念を打破する支援をし、「挑戦」へのモチベーションを高める役割を果たすことが必要なのです。

「自己効力感」を高める4つの支援

ではどのよう支援すれば、組織内の自己効力感を高めていけるのか?を、バンデューラの研究成果をベースに、以下にまとめましたので、ご活用ください。

「小さな成果の達成」を実感させる

どんなに挑戦的で大きな目標も、分解すれば達成可能な小さな目標になります。この分割した小さな目標を達成させる、「小さな成果の達成」を数多く経験させることが大切です。

  • ベテラン社員に、大きな目標(仕事)を小さな目標(仕事)に分割させる
  • 小さな成果は定量・定性化し、「見える化」する
  • 挑戦意欲の高い若手社員が、大きな目標を掲げた時、周囲が「大丈夫か?」と言ってしまうと、若手にとっては「君には難しい」というメッセージになって伝わり、本人の挑戦意欲を削ぐことになる。このような時も、「いいね!」と言いつつ、「達成を確実にするためにも、一緒に計画を練ろう」と持ち掛け、目標を小さく分割する作業を一緒に行うと良い。

「等身大の人のチャレンジ」を見せる聞かせる

そのためにも・・・

  • 先輩社員と食事に行ける制度を設ける
  • 目標達成者の実践内容が誰にでもわかるようなシステムを作る
  • 成功事例発表会を開催する

励ます

人は「自分に能力があること」を、人から言語的で、明示的に説明されると、モチベーションが上がる動物です。そのためにも、

  • チャットで応援メッセージを発信させる
  • 1on1では以下に注意する
    ▶「叱責」ではなく「どうすればうまくいくか?」を話し合う
    ▶「褒める」のではなく「共に喜ぶ」
    ▶「結果」ではなく「過程」を褒める
  • 「誰から褒められたら効果的か?」は重要。「本人を褒める人」を意図的に選ぶ

「自効力感」に影響を与える「心身の健康」を維持させる

  • マインドフルネスを取り入れる
  • 生活習慣の見直しをさせる
  • 寝不足や過労を解消させる
  • チャレンジの前に「好きなものを食べる」「好きな音楽を聴く」など、験を担がせる

次世代リーダー育成の3つの問題

昨今多くの企業で、次世代リーダー候補を発掘し,育成する「選抜育成」が行われています。しかし、実際にその取り組みを進めていく中で,「どう選んだら良いのか?」「なかなか育たない」といった、問題を抱えている企業が少なくありません。

自社の「次世代リーダー像」を正しく描くことが出来るかという問題

次世代リーダー候補を選抜するにも、そして育成するにも、「自社の次世代リーダーはこんな人でないと・・・」という、「あるべきリーダー像」が必要になる事は、誰でも、すぐ気づく事です。ふさわしい能力は?資質は?・・・。

そして、それがはっきりしても、今度は、その見つけ方が問題になります。診断方法は?測定方法は?・・・。

選抜しようとするだけで、これだけの手間と、想像するに、かなりの時間を要するはずです。ですから巷には、その手間や時間を節約してくださいと言わんばかりに、次世代リーダーに不可欠な能力は「企画力」、「変革力」・・・ですよ。選抜するための良い診断ツールがありますよ・・・という情報が溢れています。

その情報が、自社にとっての正解でないことは明白で、それらをヒントに、自社で考えるしかないのが、リーダー像、選抜基準やその診断方法です。これはコンサルタントに相談しても同じです。

よしんば、選抜基準やあるべきリーダー像の創作に成功したとしても、今度は、「こんな資質や能力をもった人材はそもそもうちにはいない」「Aさんは候補かもしれないが必要な3つの資質のうち1つしかない」というような問題を抱えることになります。

「ないないづくし」で経営をしている会社にとっては、「次世代リーダーを選抜して育てる」というのは、時間やコストの面からかなりバーが高く感じられます。

「選抜されなかた人」への対処と「選抜を拒む人」への対処という問題

次世代リーダー候補を上手く選抜できたとしても、今度は「選抜されなかった人たちがモチベーションダウンをする」という問題を抱えることになります。

また、「部門長がエース人材の選出を拒む」「選抜された本人が拒む」等、「やらされ感」を警戒して、話し合いによる合意で選抜しようとすると、このような問題も抱えることになります。

「もともと選抜するほどうちは社員がたくさんいない」という会社は、「選抜方式」を採らないので、このような問題は発生しません。「選抜する」という考え方を一旦、横に置いて、次世代リーダー育成を考えることも必要かもしれません。

次世代リーダー候補に「ストレッチアサイメント」するという問題

「研修だけでは次世代リーダーは育ちません」「修羅場の経験が必要です」・・・と、研修会社やコンサルタントはよく言います。

さらに、「新規プロジェクトや業務改革、そしてマネジメントなどにアサインさせ、疑似でも良いので、そういう体験をさせることが大切です」と付け加えます。

しかし、これに関しては、

  • うちにはそもそも「ストレッチ」になるような仕事がない
  • そういうアサイン(人事)をするには今のうちの人事制度では無理

また、その人事制度を改訂するコストも時間もない

  • 仮にアサイメントできても、所詮「疑似は疑似」。元の業務に戻れば、本人の意識も行動も元にもどるので、無駄ではないか
  • 引き抜かれる側、アサインされる側双方の了承を取ることに手間がかかる

という声が、人事・教育担当者から上がりそうです。
次世代リーダーになるための「修羅場経験」の大切さは、何とはなしに分かるが、候補者に、「ストレッチアサイメント」をしないと次世代リーダーにはなれない」となると、こういった問題を抱えることになります。

次世代リーダー育成の新たな課題

混迷の中で、方向性を決め業績を、社員一丸となって上げ続ける、そのためには次世代のリーダーの育成を急がねばいけない・・・という考え方は、現在の経営幹部の高齢化や後継者問題もあって、世間である程度、コンセンサスが取れているように思います。

しかし、「混迷している」のは、経営環境だけでなく、その環境を生き残っていけるリーダーの育成方法です。果たして過去の、「経営幹部育成」「後継者育成」や「帝王学教育」、あるいは「階層別教育」においての育成方法を踏襲すればうまく行くのでしょうか?その育成方法にも、「答えが無い」という混迷の中に、各企業とも置かれていると思います。

そこで、ある意味、発想を変え、従来からの育成方法にアンチテーゼを立ててみました。

  • そもそも特定の資質や能力を持っていないと、選抜されない、あるいはこれからの時代、リーダーになれないのか?
    👉「いやそうではない。誰でもなれるのではないのか?」
    👉「選抜するという考え方がおかしいのではないか?」

  • 誰もがリーダーにならなければいけないのか?
    👉「いやそうではない。状況次第で誰もがリーダーになり、フォロアーにもなったりするのが、これからの時代ではないのか?」
    👉「だとするとリーダーでないことは恥ずべきことではないのではないか?」

  • 本当に「ストレッチアサイン」しないと人は成長しないのか?
    👉「いやそうではない。今やっている仕事において、工夫(ストレッチ等)次第で良い経験を積ませることはができるのではないか?」
    👉「ストレスに強い人がリーダーだと決めつけなければ、ストレッチ経験ありきで、育成を考えなくとも良いのではないか?」

このアンチテーゼを、次世代リーダー育成の仮説として、今後も皆様と一緒に、より良い育成方法について、考えて行きたいと思います。

「変革型リーダーの輩出を支える人」が「変革型リーダー」そのものである

変革型リーダーの輩出には、その「ヘルパー」ではなく「パートナー」が必要です。「パートナー」とは変革に必要な社内のリソースを集め、活用できる能力を持った人のことです。このパートナーの存在如何で、組織に変革型リーダーが輩出されるかどうかが決まります。

変革型リーダーの輩出は「それを支える人」次第である

変革型リーダーを目指す社員が、研修等で学んだ後、現場に帰り、変革を起こそうと思っても、そのためのリソースが調達・活用できなければ、変革は不可能です。彼らがリソースを調達し、それらを活用できるよう支援するのが、「変革型リーダーの輩出を支える人」の大きな役割です。また、この支援能力そのものが、これからの変革型リーダーの持つべき能力のひとつでもあります。

変革型リーダーを外から招いたファッション業界

2000年代後半からファッション業界を席巻してきた「ファストファッション」。流行を素早く取り入れ、商品を安価に製造・販売する業態です。しかし、「Forever 21」の旗艦店である原宿店は2017年に閉店、2018年には「H&M」の銀座店も閉店しています。

ファッションアナリストの山田耕史氏は、「パリ等で開催されるコレクションのデザインを素早く模倣し、低価格で販売するビジネスモデルから、Instagramを始めとするSNSから生まれるトレンドを素早く反映し、より多品種・小ロットの生産体制で、多様化する消費者のニーズに応えるビジネスモデルに変換できないと存続は厳しい」と言っています。「そのためには「ITの活用による企画の効率化」「ロボットによる生産のスピードアップ」など、全社的なリソースを活用した変革が、不可欠だとも言っています。

「ZARA」のように、全社的なリソースの活用が伴う変革を、自力で成し遂げた企業もファッション業界にはありますが、いくつかの会社では、社内のリソースを市場ニーズに向かって、上手にまとめあげつつ変革を推進できる、いわば変革型リーダーを他者から招き入れて、成功を収めた企業もあります。

「CTO」は変革型リーダーであり、変革型リーダーの輩出を支える人でもある

「CTO」とは「Chief Transformation Officer:最高変革責任者)」の略称で、既存の「CTO」(Chief Technology Officer:最高技術責任者)との混同を避けるために「CTrO」と言われることもあります。上述した社外から招かれた変革型リーダー達も、転職先で、「CTO」として中央集権的に、あるいは各組織の変革型リーダーと連携しながら、社内のリソースを調達し、活用することで変革を成し遂げています。「CTO」は今や、変革型リーダー、または変革型リーダーの輩出を支える人の代名詞になりつつあります。では、彼らは具体的にどんな行動をとったのでしょうか?

CTOに学ぶ「変革型リーダーの輩出を支える人」のコンピテンシー

CTOのコンピテンシーやマインドセットについては、我が国ではまだ広く知られていませんが、IMD(International Institute for Management Development:スイスのビジネススクール)の高津尚志氏は、「CTOには、従来のチェンジリーダーとは異なる要件が求められる」とし、

  • 謙虚さ
  • 順応性
  • ビジョン
  • 聴くこと、対話すること
  • 共感

の5つを上げています。また、DBT(Global Center for Digital Business Transformation:米シスコシステムズとIMDが共同設立したビジネススクール)では、CTOの取り組むべきタスクとして以下を上げています。(意訳しました)

  • 顧客との新たな接点を発見し、ビジネスモデルを決める
  • 社内リソースを把握し、変化が必要な際に、必要なリソースを上手く組み合わせる
  • 変革の必要性を理解させるためのストーリーを創りと教育
  • ITインフラ整備・改善
  • 組織横断的な取り組みの促進
  • 柔軟な働き方の推進と、試行錯誤や継続的な学びを企業文化として醸成する

これらのコンピテンシーやマインドセットはまさに、変革リーダーを目指す社員にとっては、心強い支援になりますし、変革型リーダーのコンピテンシーそのものと言っても過言ではありません。特に「部門横断的なアクション」「リソースの組み合わせ」を「対話」や「共感性」を持って行うことなどは、従来、社長や戦略的な人事などが行ってきたことかもしれませんが、現在のビジネス環境では、特にリーダーに必要なコンピテンシーと言えます。

「変革型リーダーの輩出を支える人」はヘルパーでなくパートナーであるべき

研修の受講者が、研修で学んだこと実践できるかどうかのカギを握るのは、その受講者の上司のヘルプやサポートであることはよく知られています。

しかし、その学んだことが「組織を変革する」「イノベーションを成し遂げる」となると、上司のヘルプやサポートだけでは済みません。受講者が、「変革を起こそう」と思ってチャレンジしようとしても、そのためのリソースが調達・活用できなければ不可能です。

その結果、変革型リーダーへの道を諦めてしまうでしょう。ですから、変革型リーダーの実践やその輩出を支える人には、各部門に散らばったリソースを、変革やイノベーションのために確保し、それらを活用できる能力が求められます。

いわば、変革型リーダーのヘルパーというよりもパートナーとしての行動が期待されるのです。そして、パートナーとは変革型リーダーとして、互いに成長できる関係のことであるとも言えます。

次世代リーダーの育成を下支えする人事制度改訂2つのポイント

若手・中堅層の仕事における果敢なチャレンジを促そうと、次世代リーダー人材の育成を行うも、それが思うように進まないことが多々あります。その大きな原因の1つに、「スロープロモーションを前提とした人事制度」があります。

「スロープロモーション」が前提の人事制度だから計画的に人材育成が出来た

「プロモーション」とは昇格のことです。ですから、「スロープロモーション」は「遅い昇格」という意味になります。

例えば、「入社10年間は、同期入社の中で昇格のタイミングや等級に大きな差がつかない」等が「スロープロモーション」の典型例です。

そのような制度の中では、入社5,6年で管理職になる人が出ると、その人は、周囲から「異例の出世」とか「大抜擢」などと言われたりします。この「スロープロモーション」を前提とした人事制度を多くの企業が採用していたからこそ、高度成長期の日本企業は、その人材育成に成功し、優秀な人材を計画的に輩出し、大きく躍進できたのです。

それを以下で、もう少し具体的に見ていきましょう。

人材育成にスロープロモーションはどう貢献したのか

それではスロープロモーションが前提の人事制度が、高度成長期までは、人材育成にどう貢献したのかを、具体的に見ていきたいと思います。

  • 「抜け駆け」が無い。だからモチベーションを長期間保つ事が出来た「異例の出世をする人」がいないということは、逆に抜擢されず、それで「モチベーションダウンする人」もいません。「自分にも将来、昇格のチャンスがある。それまでがんばろう!」という意欲を、10年間も、持続させることが出来たのです。このように、「多くの人が長時間たくさん働くほど業績が伸びる」という環境では、スロープロモーションはひじょうに効果的なモチベーション維持策だったのです。

  • 外からのスカウトもなく競争相手は同期。安心してがんばる事が出来る同期というのはだいたい同じような能力を持ち、同じような角度で成長することが多いので、競争相手として想像もつかない外部の人材と争う心配もなく、安心して仕事に打ち込める状況をスロープロモーションは提供したのです。しかも、急に外部から人が乗り込んで来るという出来事が少なかったことも、安心感を持てる要因のひとつでした。「日本企業の現場の『カイゼン力』は世界一!」と言われるほど、皆が、こうした安心感をベースに、がんばれたのも「スロープロモーション」のおかげです。

  • 上に行くほど求められる「ゼネラリスト」という要件を満たすことができるプロモーションがスローなので、その間色々な仕事に携わることが出来ます。また、「転勤制度」や「ローテーション人事」などにより、さらに様々な職種や業務を体験させることで、人材育成を計画的に推進できます。さらに、あちこちの職場に転勤で行くので、将来管理職として必要になるであろう、「引き」「コネ」「人脈」という、日本企業では欠かせない「仕事+α」の能力も身につけることも出来たのです。

  • 長い間「求める人材像」に「ピッタリ当てはまる人」でいて(・・)くれる(・・・)今までは、多くの社員が「会社を変革できるようなポジションに到達するまでは、上の言う通り(目指す人材像に自分を合わせて)我慢して働くしかない」と考えていました。結果企業は、10年間近く、オートマチックに人材を確保できたのです。つまり、退職する人もほとんどなく、会社の望む「人材像」を皆が目指してくれたのです。だから人材育成計画も、ひじょうにスムーズに進めることが出来ました。例えそれが、今批判を浴びている「残業を厭わない社員」だったとしても・・・。

次世代リーダーの育成にスロープロモーションは役立たない

では、スロープロモーションを前提とした人事制度は、次世代リーダーを育成する上で問題は無いのでしょうか?スロープロモーションを前提とした人事制度下では、次世代リーダーの育成はどうなるのか?を考えてみます。

優秀な人材は10年も我慢しない、すぐ転職をする

今の時代、転職は比較的容易に出来ます。リーダーになって会社を変えたいと思うような人材が、「今の会社だと、10年待たないとリーダーとして活躍できない」と分かったら、我慢して待ってくれるでしょうか?スロープロモーションを前提としていたら、次世代リーダー人材の育成を実施する前に、その対象となる人材が出て行ってしまい、育成計画は「絵に描いた餅」となってしまうかもしれません。

社員のモチベーションを重視するあまり会社をつぶしてはならない

変化の常態化が進む中、会社の変革は待ったなしです。よって、外部からの人材登用もやぶさかではありません。なのに、大勢の社員のモチベーションを長期間維持できるからと、スロープロモーション的人事施策を取り続け、結果次世代リーダーの育成にも失敗し、会社の経営が傾いてしまった・・・これでは元も子もありません。スロープロモーション前提では、抜擢人事もスカウト人事も候補者の早期育成も出来ず、次世代リーダーの育成が進まないどころか、会社の存続を危うくする事になりかねません。

ダイバーシティや価値観の多様化は無視できない

コネクション、引き、根回し、そして人脈などの「仕事+αの能力」の育成を支えてきたスロープロモーション前提の人事制度。しかし海外企業と、あるいは国籍の違う人と仕事をする事があたり前になろうという時に、そういった社内だけで通用するような「+αの能力」を長い時間かけて育成することに、どれだけ意味があるでしょうか?

また、リーダーとしてバリバリ働くのが10年先となると、そうなる前に結婚し、子供を生んだ人はどうなるのでしょうか?収入の関係から、お金のかかる育児や家事の支援サービスを利用することが出来ず、リーダーとして働くという道を早くから断念する人も出てくるかもしれません。

若くしてリーダーになって、結果高収入を得て、色々な家事・育児支援サービスを活用しながら私生活も充実させ、子供ができて、家族が増えても、リーダーとしての仕事を継続するぞ!という意欲を削ぐことにもなりかねないのが、スロープロモーションを前提とした人事制度なのです。

次世代リーダー育成を促進する人事制度の改訂

では、スロープロモーションを前提とした人事制度をどのように改訂したら、次世代リーダーの育成を促進する制度となるでしょうか?そのポイントを2つ挙げます。

  • 入社時期や社歴、国籍に関係なく、ビジョンを掲げ、周囲を巻き込み、新しい成果を上げ続ける人が最も尊ばれ、そのための教育をいつでも受けることが出来る人事制度であること。

  • 「私はリーダーよりも専門職の方が貢献できる」「私はフォロワーである方がモチベーションを維持できる」など、働き方への価値観が多様化し、全員がリーダーになりたい(出世したい)・・・ではなくなってきた。よって、自分で「働き方」を選択できる人事制度が望まれる。そのためにも、「年功」や「能力」といった「属人的」なものを軸とした制度ではなく「職務」や「責任」といったものを軸とした人事制度であること。

「人事制度は人材マネジメントの手段である」と言われますが、これからの人材マネジメントの要諦は、次世代リーダーの育成です。その推進のためにも、「スロープロモーションが前提の人事制度」から「次世代リーダー育成が前提の人事制度」へ改訂することが不可欠です。

既得権を主張する人、収入の変化による生活の変化を嫌う人等、人事制度の改訂そのものを、良く思わない人も大勢います。その中での人事制度を改訂する事は容易ではありません。

しかし、上記2点の実現に向けて、たとえ一歩ずつでも、制度の改訂を進めていくことが出来れば、それは「会社を変えていこう」「職場をもっと良くしようと」思っている、次世代リーダー候補の背中を後押しする、明解で強力なメッセージとなるはずです。

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