教育体系

教育体系の再構築

経営環境の変化にともない、教育体系の構築、又は再構築を図る企業が増えています。
そのためのポイントを以下に述べます。

【ポイント】

  1. 「サクセッションプラン」の考え方を活用する
  2. 階層別教育は「等級制度」から一旦離れて見直しをする
  3. 教育体系の定着戦略を持つ

1.「サクセッションプラン」の考え方を活用する

研修体系の見直しに当たっては、「サクセッションプラン」の考え方を採り入れ、
今後の事業拡大や変革に対し、適応できる教育体系にすることが大切です。

経営の役に立つ教育体系

「サクセッションプラン」とは、後継者育成計画、つまり事業を継承する後継者を育成
するための計画のことです。

後継者育成といえば、それまで「社長学・帝王学」「事業継承」「将来幹部候補育成」
という言葉が一般的には広く知られていました。「サクセッションプラン」では、
これらの言葉とは違い、「現経営者の後を継ぐ」というニュアンスよりも、「今後の
事業計画や経営戦略を遂行する者を育てる」というニュアンスが強調されます。
経営者の後継ぎを育てるだけでなく、会社の将来を背負って立つ人材の育成が重要だ
というわけです。

過去、世間で後継者不足問題が噴出した時や、コーポレートガバナンス・コード
(上場企業が遵守すべき企業統治指針)の変更の際、「サクセッションプラン」という
言葉が流行りました。
しかしよく考えてみると、今のように変化が常態化している時代においては、事業計画
や経営戦略も大きく変わることが多い。よって継承すべきものは継承するが、変革期に
相応しい人材像を新たに構築し、そこに向かって育成を図るという「サクセッション
プラン」の思想は、今こそ重要視されなければならないのです。

よって教育体系の見直しにおいても、従来からの「人事制度における等級要件をベースに、
昇格昇級時のタイミングで教育・研修を行うという」考え方から脱却し、「将来の経営に
必要な人材像から教育内容を考え、必要なタイミングで必要な教育を必要な人に実施する」
という「サクセッションプラン」の考え方を踏まえ、見直しをする必要があります。

「人材のプール化」を意識した教育体系

「サクセッションプラン」と従来の後継者育成との違いにおいて、次によく言われるのが、
育成対象者を、該当する(人員が欠ける予定の)ポジションに近い年次の社員から選出し、
育成するのではなく、時間をかけて、将来の経営を支えるのにふわさしい人材の輩出を目
指し、対象者をプールしながら、継続的に育成するという点です。

「人材のプール化」という言葉は、過去日産自動車において「各部門でそれぞれ一番活躍
している人は誰?」という質問のもと、育成対象者が複数選ばれ、その集団を「Talented
People Pool」と呼んだ・・・この事で記憶されている方も多いのではないかと思います。

経営幹部の突然の欠員というリスクに対処するためだけではなく、変化が常態化している
昨今、それに対応できる人材層の厚さを持つことは重要な経営課題のひとつです。

教育体系の見直しにおいても、この「サクセッションプラン」における「人材のプール化
発想」はとても大切です。特に次世代リーダーの育成を意識した教育が幅広い対象者に対
して、できるだけ早い時期から実施されているか?がとても重要なポイントとなります。

社員のリテンションを意識した教育体系

前段で述べたように、「サクセッションプラン」では早い時期から、必要な教育や育成を
適切なタイミングで行うことが重要となるため、社員の「成長度の見極め」が大変重要な
ポイントとなってきます。

過去、良品計画が、ファイブボックス(縦軸に発揮能力、横軸に潜在能力をとったマトリ
クス形式の成長見極め基準)でその見極めを行い、適切な教育・育成を段階的に実施して
いる・・・と報じられていたことがありました。

「サクセッションプラン」が話題になる中で、必ずと言っていいほどその「壁になる」と
言われるのが、この見極めや選抜基準です。
日本では、徐々に崩壊してきているものの、多くの企業がこれまで「年功序列」をベース
に人材マネジメントを行ってきており、ポテンシャルやキャリアプランを考慮した人材
マネジメントは行ってきませんでした。

その結果、成長の見極めや選抜基準が無かっただけでなく、これにより、優秀な人材が
早期に退職したり、社員の「成長しよう」という気概を奪うことなどにつながったり、
ということも多くありました。
しかし大きな壁ではあるものの、「サクセッションプラン」における「選抜・登用基準の
明確化」「早い段階からの育成」は社員のリテンションを高め、「何をどう頑張れが良い
のか?」を明確に示すことにより、そのエンゲージメントを高めることにつながります。

教育体系の見直しにおいて、「サクセッションプラン」における「選抜・登用基準明確化」
の考え方を活用し、教育対象者の選抜基準や、段階的な教育内容をより中長期的な視点に
立って明らかにし、社員に徹底することは、リテンションやエンゲージメントの向上が
経営課題となっている今、とても重要なことであると言えます。

「サクセッションプラン」を活用した教育体系見直しの3つのポイント

サクセッションモデルの考え方を活用した教育体系の見直しについて、以上を踏まえて、
ポイントを3つにまとめておきます。

  • 今後の経営に役立つ教育体系か?
  • 「人材のプール化」が促進される教育体系か?
  • 教育対象者の選抜基準や教育内容が上記2点を踏まえ明確化されているか?

2.階層別教育は「等級制度」から一旦離れて見直しをする

階層別教育の見直しのポイントは「等級制度」から一旦離れ、「PDCAサイクル」を組み込む
ことと、戦略・方針を絡ませることです。

「等級制度」をベースに教育の内容と対象者のセグメントを考えていないか?

階層別教育を見直す際に、気をつけたいのは、自社の人事制度における「等級制度」から
階層別教育の内容と、その対象者のセグメントを考えていないか?という点です。

「等級制度」では、等級表に「一般職の持っているべき知識は〇〇、能力は〇〇、そして
取るべき行動は〇〇」などと、各等級の定義が示されています。その定義は「人事考課」
にも紐づけされており、その考課結果が給与に反映される・・・という運用になっている
企業が多いと思います。

昨今、経営環境の変化から、人事制度の改訂が行われることが多いのですが、その際、
「等級」についても見直されることが多くなってきています。

例えば、管理職の等級定義に、「リーダーシップ」を追加するなどです。
この時に、管理職の等級定義を変えたのだから、新任管理職向け階層別教育の内容も、
従来からの「コーチング」にプラスして、「リーダーシップ」を新たに入れる、もしく
はリーダーシップの研修を追加する・・・と考える。これが表題の「等級制度から階層
別教育の内容や対象者のセグメントを考える」ということです。

これだと例えば、新等級として「部長級」を増やしたのでその定義にある「集団掌握力」
をつけるために、「組織開発の教育・研修」を新任部長向けに追加する。あるいは、
中堅社員の新しい等級要件に「対話力」を入れたから、中堅社員研修のカリキュラムに
「コミュニケーション力」を高める内容を盛り込もむ…などと、等級定義にある「能力」
「知識」「行動」の数だけ、教育・研修や内容の変更が必要と感じてしまい、階層別教育
の費用がいくらあっても足りないということになってしまいます。

少々誇張して述べてはいますが、実際にはこのような考え方で階層別教育を実施している
例は意外と多いのです。

この「等級制度から階層別教育の内容や対象者のセグメントを考える」という発想から
一旦離れないと、階層別教育の投資がかさんでしまいます。また受講する社員は、内容が
「あれもこれも」で消化不良になり、現場で学習内容が活かされず、投資対効果が悪い、
いわば階層別教育の「改善」でなく「改悪」になってしまいます。

「現場でどう実践されるか?」という視点で見直す

「今の時代は人材が大切だから、投資対効果をあまり気にし過ぎるのはいかがなものか?」
という意見もあるかと思います。

しかし、皆さんはこんな話を聞いたことはないでしょうか?
「管理職全員に階層別教育として、コーチング研修を受講させたら、管理職のほとんどが
部下に対して『腰引け』になってしまった」これは何が原因なのでしょう?

原因は、受講した管理職に元々「管理職の責任は何か?」という認識が欠けていたからで
はないでしょうか。

「コーチング」は管理職に必要な力ではあります。しかし「部署方針の最終決定者」とい
う責任がある以上、部下の話を聞くだけでなく、自ら決定を下す、「強さ」も持たなけれ
ばなりません。

「腰引け」になってしまうのは、階層別教育で「コーチング」を学んだからではなく、
それが引き金になって、「責任」の認識の弱さが露呈しただけです。
「うちは大丈夫。管理職はその責任が分かっているから、コーチング研修を受けても腰引
けにはならない」という意見もあると思います。
しかし、この点はどうでしょう?

「管理職には育成責任がある」と言われます。だとしたら、管理職がコーチングで学んだ
ことを現場で活かすというのは、「コーチングを自分の部下にきちんとしている」だけで
は不十分です。
育成の責任を管理職が自覚していたならば、「コーチングを自分に部下に使う」だけでなく、
「コーチングを使って人を育成できる部下を作る」ところまでやって、はじめて学習内容を
活かしていることになるのではないでしょうか。

つまり「研修投資対効果」は、研修担当者や上司が「学んだことを帰ったら1つでも良い
から実践してくれ!」と言い、言われた側が「何でも良いから学んだことを1つでも実践
するかどうか」で決まるものではありません。

厳しい経営環境の中で、各ポジションにおける自分の責任を研修で再認識(「認識」とは
知っているだけではなく行動の決意を伴っている状態のこと)し、それに紐づけた学習内
容の実践や成果があったかどうかで決まるものなのです。

以上のように、階層別教育の見直しの視点として、「等級制度」からではなく、「各ポジ
ション(幹部、リーダー、中堅、若手等)においての果たすべき責任は何か?」という
切り口で、セグメントや教育内容の見直しを図り、教育実施後に、より良くその責任を
果たせるようにする」という視点を持つべきではないでしょうか?

そして、経営環境の変化が激しい時代、等級の昇格時に教育を行ういう運用ではなく、
そのポジションに該当する人に、等級に関わらず、タイミングよくスピーディーに行う
という、柔軟な運用に変える必要があるのではないでしょうか?

インプットではなくアウトプットという視点で見直す

「うちは詰め込み教育もしないし、投資対効果も考えているし、現場の責任意識もしっ
かりしているから大丈夫」という方もいると思います。階層別教育の見直しといっても、
「要は内容や研修手法をちょっと見直したいだけなんだよ」という方もおられるでしょう。

確かに研修内容や手法には、「流行」があり、その背景には、それを欲する現場のニーズ
があるので、そういう視点で見直すことも必要だとは思います。
しかしこういったことはご存知でしょうか?

人はインプットの努力よりもアウトプットの努力で成長する

これは「泥縄式:泥棒を捕らえてから縄をなう」を略したもので、泥棒を捕まえてから慌て
て泥棒を縛る縄を作ること)という言葉を、プラスに解釈した文章とも言えます。

一般に、「泥縄」は「事が起きてから準備をする」「行き当たりばったり」と解釈される
言葉です。しかし、準備を万全にしてから事にあたるのではなく、「まずは始める」
「必要に応じて何かをしてみる」という行動重視の考え方でもあるわけです。

  • 階層別教育の中で、インプットしたものを使って現場で実践する目標を研修中に
    立てさせる
  • 研修終了後しばらくしてから、その研修中に立てた目標は実践され、成果は達成
    されたのか?それはなぜか?どう次に活かすか?を確認し合う
  • また以上2点を理解した上で研修を受講する

言い換えれば、

階層別研修の内容に「PDCAサイクル」を入れ込む

これが、いわば「泥縄式」また「アウトプットの努力を使った人の育成」です。
現場や経営陣からの階層別教育への要望は「仕事に役立つもの」つまり「アウトプット
重視」ですから、流行り(最新)の内容、手法であろうがなかろうが、現場でそれが活
かされるように、全ての階層別教育の中に「PDCAサイクル」を採り入れているか?と
いう見直しの視点を是非持ってみてはいかがでしょうか?

しかも、PDCAサイクルを回すと(≒アウトプットの努力を本気で行うと)、等級定義
上の能力や知識が、結果的に驚くほど早く身に付くものです。

ケーススタディでは自社(部門、部署)の方針や戦略を使っているか?

「アウトプットの努力の重要性は分かるが、インプットも重要だ」「そのためには座学
中心でなく、ケーススタディ方式の方がインプットされやすいのでは?」というご意見
もあるでしょう。
確かに座学中心では、受講者の頭には、なかなか入らない研修になってしまうかもしれ
ません。ただし、ケーススタディを導入するのであれば、少し考えていただきたい点が
1つあります。

もともと「階層別教育」を見直す理由は大きく2つあります。

  • 自社の経営に役立っているか
  • 経営を支える人材を輩出しているか

の2つです。

今どの会社も、経営はより「戦略的」に行わなければならないだけでなく、その戦略を
スピーディーに実行・検証し、改善していかねばならない状況に置かれています。

架空のケース、他社のケース、研修会社の作成したケースも時には良いのですが、自社
の戦略や方針を研修の中に取り入れ、それをケースにした方が、経営戦略や方針の推進
と中長期的に経営を支える人材の育成が両立できるのではないでしょうか?
具体的には、先ほど述べたように、研修中に立てる実践目標や計画(PDCAサイクルのP)
を、自部門や自部署の戦略や方針に絡めて立てさせることで、それは実現できます。

3.自社オリジナルの「教育体系の定着戦略」を持つ

「AIにはできない仕事ができる人材にしよう!」「生産性向上を狙おう!」と思い、
教育担当者が、熱心に教育体系構築とその実践に取り組むのは良いのですが、そのこと
により陥る「無限ループ」には十分注意しなければなりません。
「教育体系は現場に定着してこそ意味がある」との考えに基づき教育体系を構築する
(教育定着戦略を実践する)ことが、教育体系の投資対効果を高めます。

教育投資を行えば行うほど労働生産性は上がる

2018年度の経済財政白書は、企業の人材育成のための投資、これはOJT(職場内教育)
OFF-JT(研修などの職場外教育)と「教育時間×それに充てた賃金」(機会費用)を
足したものですが、それが調査の結果、対象企業の一人当たりにかけている年間投資額
の平均は280,000円であることが分かりました。

その投資対効果はいかがなものかと言うと、人材育成のための投資額を約1%アップす
る毎に労働生産性は約0.6%アップする、白書は述べています。

自己啓発が進めば進むほど労働生産性は上がる

また同白書では、対象企業中、社員の自己啓発を積極的に支援している会社の場合、同じ
ように1%の投資増額で、約0.68%の労働生産性向上を達成しているとのことです。

ちなみに、白書では、この自己啓発(技術習得、語学力向上、資格習得等)をしている人は
していない人に比べ、その2年後に年収で約99,000円、3年後で157,000円も高い年収を得て
おり、就業確率(仕事をしていない人が仕事に就ける確率)では、自己啓発していない人よ
り10ポイントほど高い確率で職に就けるとも述べています。

ではなぜ今、教育投資の増額や自己啓発の重要性が、経済財政白書等で盛んに取り上げられ
ているのでしょうか?

教育投資増や自己啓発が盛んになる背景 
~ITが人の仕事を奪う~

我が国の高度IT技術者は就業者全体の約1.8%で、イギリスの5.2%、アメリカの3.0%に比べ
て少なく、しかもその技術者の約7割はIT企業で働いているそうです。
ちなみに海外ではIT企業で働くIT技術者は全体の3割~5割程度で、残る5割から7割はIT企業
以外で働いています。

我が国は、IT技術者のうち、高度な技術を持った人以外のIT技術者が、また、IT技術者以外
の人の多くが、「定型業務をこなしているだけ」だと欧米からは揶揄されています。かつそ
の定型業務すら、生産性が低いとの指摘もされています。

この定型業務の部分がITに取って代わられとしたら、多くの人は職を失うかもしれない・・・
そこで「ITにできないような問題の解決ができる人」「ITを活用してITができないような
仕事のできる人」になる、もしくはそういう能力を引き出す、という理由で、人材育成の
ための教育投資や自己啓発の重要性が叫ばれていると言えます。

また、今後ITにかかるコストが下がっていくと、ITの方が、生産性が高くしかもコストが
安い、人の方が生産性が低くコストが高い・・・となり、投資が賃金配分よりIT投資にされ、
社員の給与が抑えられてしまう。その結果、消費の停滞すら起きる・・・ということまで懸念
されるので、人材育成の重要性が喧伝されているのです。

ITを活用して問題解決をできる人材を増やし、生産性向上を図るためにも、企業は人材育
成投資と自己啓発の整備を進め、それを社員も積極的に活用しなければいけない時代が
本格的に始まった、と白書は言っているのかもしれません。

実際には、社員教育をしても労働生産性は上がらない?

「人材育成のための投資額を約1%アップするとその労働生産性は約0.6%アップする」
「自己啓発を積極的に支援している会社の場合1%の投資増額で約0.68%の労働生産性向
上を達成している」・・・本当なのか? 正直実感が湧かない、当社は違う!・・・そう思った
方も多いと思います。
そう思った方に是非考えていただきたいことがあります。

それは、では、どうすれば労働生産につながるのか? どうすればITを活用して問題解決
できるような人材の育成につなげることができるのか? 教育体系において、見直すべき
点はないか? ということです。

白書の言う投資内容は「研修」に対してだけではありませんが、投資額の比較的大きな
OFF-JT(職場外研修)に絞って、この点を考えてみたいと思います。

実は、教育・研修担当者の偏った関心が大きな原因

教育・研修投資が思うように生産性向上や人材育成につながらない原因は、色々あります
が、実は、教育・研修担当者や教育体系を構築する人に、以下のような関心があることが
その大きな原因になるケースが多く見受けられます。

①何かもっと良い教育・研修メニューはないか?

「良くない研修」には色々な意味があるとは思います。「内容が古い」「自社に合ってい
ない」「座学中心で身に付かない」など。したがって、「もっと良い研修メニューはない
か?」といったことに、研修担当者の関心が向くことは、特段おかしい事ではありません。

ただ、「教育メニューそのものが本当に問題なのか?」あるいは「見直すことそのものが
目的になっていないか?」には留意する必要があります。「担当者が代わる度に教育内容
が変わる」「新しい担当者は前の担当者と違う事をやりたがる」という声を、現場から
聞くことがよくあります。

受講する側からすれば、メニューに一貫性がなく、どれもこれもが中途半端になるため、
現場の生産性向上にはつながりません。

どこかにもっと良い講師はいないか?

「教育・研修の成否において講師の質は重要だ」という考えをお持ちの研修担当者の方も
多いと思います。
確かに「次回もあの講師で」「あの研修も同じ講師で」という願いが叶えば、とりあえず
「安心感」は得られます。ただ、行き過ぎは禁物です。行き過ぎとは「研修は講師次第」
「有名な先生の話なら役立つだろう」など、「講師依存」になっている状態のことです。

かつて「振るわない飲食店を繁盛させる」というTV番組がありました。
出演したコンサルタントが「自分が手を放した時に自立できるか心配だ」と口々に言って
いたのが印象的でした。後日、お店に取材に行くと、コンサルタントが離れた後も繁盛し
続けるお店と、そうでないお店があるからです。

「講師頼み」になると、社員の育成が遅れ、しかも継続的に生産性を向上できなくなる
ことがあるのです。

③流行の研修手法は何か?

研修の「手法」というと、講義、ロールプレイング、ディスカッション、ケーススタディ、
実地訓練、IT活用等のハードと、理論、メソッド、ストラクチャ(構造)、コテンツなどの
ソフトがあります。

手法は日々研究され、最近では「組織開発」の分野で研究や研鑽が進み、個人と組織の生産
性をどう両立するかの手法等、新しいものが次々と生まれています。

しかし、「研修に飽きさせない」という理由で、新鮮さに固執し、新しい手法を導入し過ぎ
るのは良くありません。
たとえ古い手法・メソッドでも、一番大切なことは、現場の生産性が向上し、ITを活用して
ITではできないような仕事ができる人材を育てるということです。どういう手法がそれに役
立つのか? これは個々の現場の状況次第であることを忘れてはなりません。

④教育を受けた人の受講満足度が第一

受講者が研修後のアンケートや感想で「とても良かった」と書いてくれることは、研修担当
者にとってとても喜ばしいことです。苦労が報われる瞬間でもあります。確かに、研修中
「これは受けても意味がない」と、不快な気分で受講することは教育効果にマイナスです。

しかし、「良かったよ」と言われることを第一に考え、受講者が気に入るような研修ばかり
行っていても、生産性の向上につながりません。

実際に、「受けたい研修を自分で選べるという制度を導入したら、会社として受けてほしい
研修を受講してくれなかった」という意見も多く聞かれます。 つまり「受講満足度第一」
という考え方では、生産性向上や人材の成長にはつながらないのです。

⑤教育体系に対しての、現場の不満に過敏である

教育体系への不満の声とは?例えば、

【OJTリーダーからの不満】
「うちのマネージャーは若手社員の育成を私達OJTリーダーに丸投げしている」

【マネージャーからの不満】
「うちの部下の成長速度が遅い!人事はもっと良い研修をやってくれ」

【中堅・若手社員からの不満】
「研修は一応受けますが、研修は勉強の場です。研修と現場は別物です。」

これらの声は、教育体系を見直す大切なヒントです。
しかしその背景には「教育の責任は誰にあるのか?」「研修をやりっ放しで良いのか?」
「研修を活用する責任は誰にあるのか?」などの重要な問題意識が潜んでいます。
そしてその問題意識のさらに奥に、教育投資が生産性向上や人材の成長という成果に結び
つかない元凶が隠れているのです。元凶とは、

教育を無駄にしないための、自社の『教育・研修定着のための戦略』を、担当者も現場も
誰も理解していない、そもそもそこに関心がない

というものです。
そこに関心を向けて手を打たず、表面的な不満の声に対応すべく、教育・研修担当者が、
「メニュー・講師・手法・満足度」の改善へと走ると、それに対して、また現場の不満が
フィードバックされます。すると、さらなる「メニュー・講師・手法・満足度」の改善を
行い、それがまた不満を生む・・・という「無限ループ」に、熱心な教育・研修担当者ほど
陥ってしまうのです。

この「無限ループ」に陥るのを避けるためには、現場の不満には対応はするが最も大切な
のはそういった小さな不満の奥に「もっと現場で役に立つ教育体系」「人がもっと育つ
教育体系」を切実に望む声に耳を傾け、その声に応えることです。

教育体系の投資対効果を高めるためには、「教育・研修をどう現場に定着させるか?」を
含めて、教育体系を考える必要があります。

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